e-春風塾

「生徒のお陰で」つばっしー先生インタビュー

e-春風塾の代表として活躍している、つばっしー先生こと、沢津橋紀洋さん。早稲田大学文化構想学部を卒業後、東京大学に編入学し、最終的には教育学修士号を取得され、長らく教育の分野に関わってきました。2021年春から、縁あって東京から糸島に移住。今回はそんなつばっしー先生に、これまでの教育に関わる経緯と生徒さん達への想いを語っていただきました。

(取材日 2024.12.6)

―学生時代はどのように過ごされていましたか?

大学は当時出来たばかりの早稲田大学文化構想学部という、文学部を学際的に再編成した学部に進学して、自分の人生は何か、社会とは何かを考えたいと思いながら勉強していました。学生生活の中で塾のアルバイトにかなり精を出していたんですが、その塾で少人数ながらに一つのクラスを任せてもらったのが、自分にとってとても良い経験でしたね。

僕は国語が専門だったんですが、当時「国語は授業だけしていたらだめだぞ」と運営側から指導されていて。国語はやる気を出させて動機付けをする科目だから、授業開始後、すぐに学習指導に入るのは良くない、と言われていました。扇動する、という意味の「アジテーション」という言葉をもじって、アジれ!と(笑)。国語教師たるもの、1時間はアジれなきゃいけないという、そういう塾でした(笑)。なので、大学生ながらもアジる、まあ言い換えれば生徒の心に火をつけるための話ですよね。そのために色々考えて、本の一部や新聞記事の抜粋を持って行ったりしながら話していました。教師としてのコツを掴んだのは大学3年の時で、超優秀な生徒だけで構成されたクラスを担当している時期でした。そこのクラスに生徒は二人しかいなかったんですけど、二人とも問題演習をやっても余裕で全問正解で、僕が喋ることがなくて。そんな中で彼らに何か残せないかな、何か伝えたいな、と色々考えたことが実を結んだと思います。

大学3年生で英語サークルを引退した後、もう少し将来について考える時間が欲しいと思って、計画的に留年することを前提に、4年生の時にヨーロッパでバックパックしたんです。なぜヨーロッパかと言うと…?うーん、やっぱり自分で色々本を読む中で、学問の正統的な基盤はヨーロッパ文化、キリスト教文化にあるなぁと感じていたからです。一回、その空気を吸って色々見聞したかったんですね。

帰国してからは、日中は本を読んで考えて、夕方は塾で子どもたちに話してアウトプットする、というサイクルを続けて過ごして、コツを掴んだ部分を更に成長させてきました。そうやって子どもたちと向き合ったことで一皮向けたと言いますか、子どもたちに何か残したいという気持ちで取り組んで、四苦八苦したことが、宝物の経験になったと思いますね。

―早稲田大学を卒業後、東京大学に編入学したとお聞きしましたが、どういった経緯で編入学しようと決められたのですか?また、そこでの学びについても教えてください。

 計画留年して5年生になり、いよいよ就活をするっていう時期に、最初はこのまま学者になりたいと思って、学問を続けるために大学院に行こうとしていたんです。でも、大学院でどこを受験するか探していた際に、特に研究テーマが思いつかなくて。色々考えた結果、純粋に、子どもたちに話すために学問を知りたいだけだなと感じて、東京大学文学部に編入を決めました。

ー純粋に興味でお聞きするのですが、編入学の試験というのはどういったものなのでしょうか?

 まあ、いわゆるセンター試験という感じでは全くないですね。独特だと思ます。僕の年の東大文学部の試験で印象的なのは、「人間の理性とは何か、論ぜよ」というお題だけで、2時間。A3の解答用紙をぽいって渡されて、書き続けるんです(笑)。ただ、塾でアジっている際に、黒板に単語をぽんと一個書いて、そこから説き起こして話していく、というのを日頃やっていたので、個人的には「話すことはいくらでもある」と思って、たっぷり書きました。それで合格できたので…生徒のお陰で、僕は東大に来れたな、と感謝してました。

 ただ、東京大学文学部という、純粋に哲学者等を目指している人たちが集まる学問コミュニティに身を置いてみて、思想のための思想とか、哲学のための哲学は自分には出来ないなってまた改めて思ったんですね。自分の本当にやりたいことは学問の真理を求めることじゃなくて、子どもたちに良い話をしたい、子どもたちに何か残したい、ということに改めて気づいて。やっぱり常に生徒ありきのスタンスだなと。それでも学問を続けたい気持ちはあったので、その後東京大学の教育学部の大学院に進学しました。そこでは教育社会学のコースに所属して、良い授業が社会においてどんな意義をもたらすのか、社会における教育の構造はどのようなものなのか、ということについて、研究者視点と純粋な教育者視点から見ながら研究していましたね。

―今現在、プログラミング塾という形で教育に携わっているのも、学生時代の経験が大きく関わっているのでしょうか?

 そうですね。僕は修士論文でインターネットが教育に与える影響について研究したんですが、それが割と新しめの取り組みだったんです。東大の教授陣からは賛否両論、極端でしたね(笑)。ただそれを通して、既にあるものを研究するというよりは、新しい物を作る立場に回って、作っていく中で自分と生徒、社会と向き合いたいなと思って、今に繋がっている感じです。

 プログラミングや情報技術と積極的に関わるようになったのは、星出先生(以下、ほっしー先生)との出会いが大きいですね。新しいものを作る、という点で意見が一致して、一緒にプログラミング塾を始めるという形になりました。

―プログラミングの分野に関わることになって、気付いた魅力などはありますか?

 受験の合格不合格みたいな、誰かが落ちたら誰かが受かる、というシステムではない世界なのがすごく好きですね。比較して誰かが良い、誰かが悪い、ではなくて、自分がやっただけ良くなっていくのが良いなって。受験勉強とは違って、学んだことや作ったものを比較的すぐに社会に向けることができるのも魅力だなと思います。

―教育において大切なのはどんなことだと思いますか?また、つばっしー先生が教育者として携わる中で大事にしていることがあれば教えてください。

 一般論として、精神的余力を残した状態で大人にしてあげることが重要だな、というのは強く思っています。技術や知識を獲得することはもちろん必要だけど、過剰にやって疲弊するのは良くない。「精神」は人間の持ち物である以上有限のものですから、その意識を持った上で子どもたちを扱ってあげるべきかな、燃え尽きないようにしてあげた方が良いな、というのはすごく感じています。

 あとは、私教育として「変わらずに存在していること」は大事なのかなと思います。家族じゃないけどずっと一緒にいられるようなコミュニティが作れたら良いのかなって。僕がかつて通っていた塾は、今でもたまに顔を出すと当時から変わらず在籍している先生がいたり、元生徒が先生として戻ってきたりしているんですね。そんな風に、ふとした時に戻って来られる、変わらない場所があると、自分自身はどんなふうに変わったのかということに向き合うことも出来ますし、相手の変化や成長を感じることも出来る。それがすごく楽しいなって思うんです。異動がある公教育ではかえって出来ないことだなと思うので。将来的にe-春風塾を卒業した子たちも、戻ってきたり顔を出してくれたりしたら嬉しいですね。

―最後に、今後目指していきたいものは何ですか?

 ほっしー先生がやっている教育を支えて伸ばしていきながら、生徒を人としてどう伸ばすのか、どういった経営をして行ったらいいのか、というところを考えていきたいですね。ほっしー先生は、例えば開発ソフトの使い方というよりも、コードの組み方など、プログラミングとは何か、という根幹になる部分を重点的に教えてくれているんです。これってすごいことで、本質的に残る技法を仕込んでいるんですね。AtCoderの全国ジュニアリーグにも生徒が出始めてくれてますし、これは、将来生徒の中からとんでもない大物が誕生するかもしれない!と、経営を担当しながらとても楽しみにしています。

プログラミングのような、誰もが見て分かる技能があると、周囲から認めてもらいやすく、その分社会不安がなくなり、人間として成熟出来るのではないかと思います。「社会で認められなければ、生き残らなければ」という感情はすでにクリアした状態で、生徒の皆さんには社会に出て行ってほしい。そのためにアプローチするのはやっぱり教師陣の役目だと思うので、より一層今の教育を深めていきたいですね。

―つばっしー先生、ありがとうございました!

取材&記事制作 ゆずか記者(保坂柚花 九州大学文学部2年)

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です