小中学生のプログラミング学習が浸透してきて早数年。勉強している人の中には、将来プログラミングを使った職業に就きたい!プログラミングのことをもっと勉強したい!という思いを持っている人も多くいるのではないでしょうか。そこで今回から、「高専」という1つの進路の選択肢をご紹介するべく、実際に高専を卒業して活躍している3名の先生方に、順番にお話を聞いて行こうと思います。
「高専」とは、高等専門学校の略称。パソコンや機械系の専門知識を学べる学科が多く存在しています。
今年の4月に高専に入学した先輩へのインタビュー記事も公開されておりますので、ぜひあわせてチェックしてくださいね♪
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今回、最初に取材に応じてくれたのは、べーやん先生こと岡部蒼太先生。大島商船高専を卒業後、大学院への進学、就職を経て、現在はe-春風塾の講師兼エンジニアとして活躍しています

―高専を目指したきっかけは何でしたか?
「もともとパソコンが好きだったので、パソコンに関わる勉強がしたいなと思っていたところ、中学の頃の担任の先生に『高専があるぞ』と勧めてもらったのがきっかけです。僕の地元には珍しく高専が2校あって、身近な存在だったというのも一つの理由ですね。そういった経緯で高専進学を決めて、推薦入試を受験しました。」
―推薦入試というと、面接がありますよね。面接、というと就活をイメージしてしまいますが、高専の面接ではどういった部分を見られているんでしょうか?
「就活の面接にちょっと近い部分はあると思います。志望動機は間違いなく聞かれますし、高専に入ってから何を学びたいのか、何を研究したいのか、という将来のビジョンは重視される部分ですね。単純に『好きだから』だけではなくて、その『好き』を将来具体的にどう生かしたいのか、どう使いたいのかを言語化できるかどうかがカギになると思います。」
―自分が目指す将来の解像度を上げる、ということですね。
「そうですね。まずは自分何が好きなのか、から入って、じゃあそれをどんな仕事で使いたいのか、そのために何の知識が必要で、どんな勉強をするべきなのかを分析していく。そのうえで、そのやりたいことと高専のカリキュラムがマッチしているんだ!というところをアピールできると良いと思います。高専の中でどういうステップを踏んでいくのか、ロードマップを描けるようになる、ということです。」
―でも、将来像を具体的にして、それをさらに言語化するって難しそうですよね…。解像度を上げるために、どんなことが重要だと思いますか?
「いろいろあると思いますが、自分の判断の納得感を高める材料としての情報を集めることは大事だと思いますね。考えるための材料が少ない状態で判断を下すのは、とても難易度が高いです。やっぱり、可能な限り情報を集めるというのは分析の基礎になると思います。情報が増えると、自分にとって何が大切なのかを判断する基準も増えるので。そうやって基準を増やして、自分が納得のいく判断をすることができれば、どう転んでも『良かったな』と思える未来に繋がるんじゃないかな。ただ、すべての情報が必ずしも自分にも当てはまるとは限りません。自分にとって必要な情報は何なのかを取捨選択するのも大事だと思います」
―実際に高専に入ってみて、どんな生活を送っていたのでしょうか。印象的だったことはありますか?
「僕は当時将来学びたいことまではっきり決まっていたわけではなかったので、最初の1年半くらいはあまり熱が入らなかったんですが(笑)、高2の冬にUnityという3Dゲームを作れるツールに出会ったのがきっかけで、もっとプログラミングを勉強したいと思うようになりました。そこからコンピュータ部に通い詰めるようになって、大会に出たりチームで開発をしたりして、すごく楽しかったです。こうやって、何かやりたいことを見つけた時にすぐに実践できる環境があるのは、高専の魅力だなあと印象に残っています。プログラミングを教えられる先生も沢山いるし、同じようなことに興味を持つ友達にも囲まれているのは、恵まれた環境だなと」

―確かに、意欲が沸き上がった時にすぐに形にできるかどうかは、今後それを続けていくうえでも大切ですよね。普通の高校だとプログラミングを教えられる先生は滅多にいないので、そういった環境は専門学校ならではかもしれません。
「そうですね。高専の先生は、教員というよりも研究者のような立ち位置なので、専門分野に関してはとてもレベルの高い知識や技術を持っているんですよね。高校生の時点でこうした専門性の高い先生に教えてもらえるというのは、かなり特殊で貴重な環境だと思います。だから、やりたいことがあれば、大学とほぼ遜色ないレベルで教えてもらえるんじゃないかな。逆に自分から『やりたい』と言わないと、何も得られないまま卒業になってしまいます。そういう意味でも、自分のやりたいことを明確にしておくというのは大事ですね」
―高専は卒業するために卒業研究をするんですよね。当時のべーやん先生の研究について教えてください。
「僕は卒業研究で、川鵜による漁業被害を減らすことをテーマに、ドローンの追尾認識機能の開発をしました。川鵜という、魚を食べてしまう鳥がいるんですが、それを追い払うための自動操縦のドローンを飛ばす、という構想を立てたんですね。そのために川鵜を認識して追いかけるドローンの機能を作った、という感じです。この『川鵜を認識する』というところが難易度が高くて大変でしたね。これには深層学習(=大量のデータをもとに特徴を解析し、対象を学習するAI技術の一つ)を利用していたんですが、当時はこの技術についての文献が出始めたばかりで、情報が少なくて。時には英語の文献を読んで、それを実際のプログラムに落とし込んで実験して、だめだったら直して…という、トライアンドエラーを繰り返して研究していました」
―聞くだけでも難しそうです…!プログラミングを使って、漁業をテーマに研究することもできるんですね。
「はい、プログラミングはあくまで手段なので、色んな分野と繋がって発展させることができます。高専での研究はまさに、『プログラミングを使って何をするか』というところが研究テーマになるんです。どうやって新しいものを作るか、どう付加価値をつけるか、というところが重要になってきます」
―こうした高専での研究や勉強が、今にも生きているなと思うことはありますか?
「情報を集める時に、必ずその情報の裏取りをする癖がついたのは今でも役立っているなと思います。何か情報が出てきたら、じゃあその一時発信源はどこなのか、信頼できるソースがあるのか、を確かめるということですね。例えばネットに挙げられている記事や論文でも、執筆者の主観が入った記事になっていないか、とか、その情報はどこから得られたものなのか、とか、そもそも正しい情報なのか、とか、そういったところを常に意識して考えるようになりました。目の前にある情報をすべて鵜のみにするのではなく、思考の基本セットとして、『本当にそうなの?』と疑えるスキルが身に着いたということは、とても重要かなと思います」
―いわゆる「情報リテラシー」と言われるスキルですね。逆に、もっとやっておけばよかったな…と思ったことはありますか?
「英語ですかね…。僕もかろうじて読むことはできますが、話せなくて(笑)。高専ではどうしても理系科目の授業に力を入れて取り組むので、文系科目はおろそかになりがちです。理系だから英語を使わないなんてことは全くなくて、僕の卒業研究のように英語の論文を読むこともあるので、特に英語を読む力というのは必須です。さらに仕事をしていく上では、それ以上に英語に触れる機会は増えます。普通の高校生よりも必然的に学習量が少なくなるので、自分で勉強する意識はあった方が良いかもしれません」
―最後に、高専を目指す生徒の皆さんに向けて、メッセージをお願いします!
「将来自分が何になりたいのか、高専に入って何がしたいのかを明確にすることは、まず一番に大事にしてほしいなと思います。それがあれば、5年間充実した高専生活が送れること間違いなしです!」
―べーやん先生、ありがとうございました!
他2名の講師の方へのインタビューは後日公開予定です。お楽しみに!
