e-春風塾

開校3周年インタビュー ほっしー先生「最後まで楽しんで」

取材日:2024.6.8

前回のインタビューはこちらから(2021.7)

─開校当初のインタビュー記事から3年が経ったということですが 、あれからいかがでしたか?

 前回は確か大学院に入ったばかりだったので(九州大学院数理学府に在籍)、熱が強いじゃないですけど、「やったるぞ!」みたいな感じが強かったと思います。春風塾を作ろうとしたのが2021年の春に九州に来て熱風寮に入って一か月経たないくらいの時で、それこそ一週間くらいで最初の「始めようぜ!」っていう構想は話してたんですよね。そこから半年くらいでほぼほぼ形になって、みたいな感じで、怒涛すぎて正直、大学院一年の学業の記憶はあんまりないんですけど(笑)。だから一年目は結構塾に力を入れて、他のバイトもしながらやりたいこと探すみたいな期間でした。

 でも基本のところ、前回のインタビューでも話した「技術も熱意もある子を育てたい」とか、「楽しみながらやるのが一番」っていう思いは変わっていないです。この一年でタイピングゲームの開発の仕事を貰う機会があったんですけど、上司の指示で言われたとおりに作るというよりは、コードもデザインも1から10まで自分たちで作りたい物を作れるみたいな状態で。やりたいなと思ったことはすぐに実装できる環境だったので、それがすごく楽しかったんです。それもあって、プログラミングでせっかくすごいことができるなら、楽しみながらやらないと、っていう思いはずっと変わっていないところですね。寧ろその思いが強くなった3年間かもしれません。

─思いが強くなったというのは、やはり開発の仕事を通して感じられた部分が大きいですか?

 そうですね。開発の仕事をしながら、本部から「こうしてほしい」って要望が増えたりして、正直楽しくないなって思う時期もあったんです。3年前まではそれでも良いかなと思っていたというか、自分の持っている技術で出来ることがあって、それを必要としてくれている人がいて、そこでマッチしてお金が貰えるなら、良い働き方かなと思っていたんですけど。でもやっぱり無理してやっていても結局楽しくないし、せっかく生き方を選べる時代なんだから、やりたいことをやる生き方をした方が良いなと。プログラミングが出来るなら尚更、そこからどう働くかは自分次第だと思うので。地に足付けて、自分が無理せず出来ることを無理せずやりたい、それで生きていけたら一番幸せなんじゃないかなぁと思っています。熱く「やりたいことをやりたい!」って突き動かされている感じではないんですが、実際にそう生きてみて大変なことも楽しかったことも経験して、その思いが一層身に染みてきた感じがします。

─開発の仕事では具体的にはどのようなソフトを作ったんですか?

 ミニゲームがいくつかあるタイプのタイピングゲームです。例えばタイピングするごとに足が速くなるレースゲームとかが入っています。それに加えて、何回かミニゲームをやると貰えるコインを使ってゲーム内のスキンを引けるガチャみたいな機能をつけて、飽きないような工夫を施しました。子供たちにやってもらう前はどんな風に興味を惹けるか不安だったんですけど、実際やってもらうと全然やめない子とかもいて。楽しんでやってくれているので嬉しいですね。

  (作成したタイピングソフトのプレイ画面)

─2023年春で大学院の修士課程を修了されたとのことですが、修論を書くにあたってのエピソードを教えてください。

 僕のいた研究室は応用数学、数学の定理を生活の中でどんな風に応用できるかを研究する学問を主にやっていたんです。その中で、プログラミングの基礎を支える理論にもなる「圏論」という分野に興味があって勉強していました。圏論は、「物と物の関係を調べる」学問なんですけど、それを整理するにあたっては、数式ではなく図式を使うんです。でもその図式を自動処理してくれる計算機が実はまだ存在していなくて、皆手書きで書いているんですよ。それをちょっと近代的にしたくて、半自動計算で圏論の図式が計算できるシステムを作りをしていました。学部生の頃にも圏論の研究をしていたので、それと自分のプログラミングスキルを組み合わせて、ちょっとしたイノベーションを起こせたらなと。数学科でもプログラミングが本格的に出来る人は少ないので、それが出来るというのは強みになりました。

 ただこの分野の研究自体、こうしたら上手くいくだろうという理論研究こそあっても、実際に作ってみた前例が無かったので、割と手探りで進めないといけないのが大変でした。最初の基盤作りに一番時間が掛かったかな。一応僕の前に博士課程の人で途中まで開発を進めていた人がいて、それを引き継がせてもらったんですけど、途中で結構根本的なバグがあることが分かって。1から作り直しになったのがきつかったですね…。

─プログラミングはどこで勉強されていたんですか?

 ほぼ独学でしたね。僕はべーやん先生と同じ高専の出身で、興味を持ったのもべーやん先生がきっかけでした。高専でプログラミングの授業もあったんですけど、芯が掴めるまではあんまり楽しさが分からなかったんですよ。でも二年生の終わりくらいに「Java本」っていう界隈では有名な本を読んで初めて、プログラムって実際にはこういうことをやってたんだ!と気づきました。塾の子たちで「プログラムやって何になるの?」っていう子たちがやっぱりいるんですけど、やってたらいつか分かるかもよ、という気持ちで見ていますね(笑)。

─何をやっているかが分からないと、面白さに気づけないですからね。そんな春風塾の生徒さんは普段どんな様子ですか?

 年齢によって結構細かく雰囲気が分かれているんですよね。同じ年齢の子の中でもプログラムに元々興味がある子は食いついてくれるけど、あんまり興味のない子はやってくれるものに偏りがあったりして。小学生だとまず出来るようになるのも大事ですけど、それより楽しかったって思ってもらうのが一番大事なので、それは意識しながらやっていますね。実際、皆楽しんで通ってくれていると思います。

 中学生になると将来のことを考えて通ってくれる子も多いです。初めの頃は遊んでばっかりだった子が、今ではハマってやってくれていたりもします。今中学生の子たちはプログラミングの楽しみ方の一つとして「競技プログラミング」というのをやっているんですけど、そのコンテストに自主的に参加してくれる子も多くいるんですよね。高校対抗の大会もあったりして、上位入賞を目指して頑張っています。最初は先生が引っ張って参加する形だったんですけど、ハマっている子とかは僕が忙しくて出られない時にも参加してくれています。

 プログラミングは学び終わることは決してありませんが、一つゴールはあります。一度芯を掴むことが出来れば、あとは分からないことも調べれば何でも出来るなって気分になるんです。この段階まで来ると新しいことの吸収も早くなりますし、プログラミング自体の勉強はこの時点で終わる感じがしています。勉強が勉強でなくなって、趣味との境目がなくなってくる瞬間みたいな。春風塾の中学生の子の中にも、この段階に到達してきているなと感じる子がいて、その様子を見ているとすごく楽しそうだなと感じますね。

 塾を立ち上げた頃に、「一緒に働ける子を育てる」というビジョンを掲げていたんですが、最初は漠然としていたものが、最近の子たちの様子を見ていて、「一緒に働ける人材」が結構見えてくる気がします。塾をやっている時の雰囲気も、学習塾という感じは全然しないんです。皆で集まって、それこそやりたいことをやっていて、それが意味のあることになっているみたいな。そういう風景を見ていると、将来一緒に働く時も、こういう空気間を持って働けたら良いなぁというのが結構現実味を帯びてきたように感じます。

(前原校の土曜夕方、中学生がC#に取り組む)

─春風塾の今後の展開について考えていることがあれば教えてください。

 中高生向けのプログラミング教育に力を入れたいなと思っています。今のプログラミングって小学生向けの物と、大学生向けの就職とかを見据えたサービスとに二極化していて、中高生向けの物はあんまり多くないんです。でも今小学生で学んでいる子たちが多いということは、数年後には中高生の層が増えるわけなので、そこに向けて中高生向けのプログラミング塾をやっています、というはアピールしていきたいと思っています。

 あとは学んだプログラミングを生かしてバイトをするという経験まで見守れたらいいですね。学んだことを使ってお金が稼げるという経験ができる、そういうのを組み込んだカリキュラムがあったら良いなとは思っています。仕事の場面では絶対に何かイレギュラーが起こるので、そういう時の対処だとか、実践的な部分を教えたいです。

 チームで何かやる、というのもやりたいですね。チーム開発をさせようと思ったらそれをマネジメントするカリキュラムが必要だとずっと思っていたんですが、最近の中学生の様子を見ていると、信じて任せて見守ってみるのも面白いかなと思ったりもします(笑)。

─最後に、何か皆さんにメッセージがあればお願いします!

 3年前以上に、楽しんでやることが大事、ということを伝えたいです。何をしている時が自分が楽しいかを意識してほしいなと思います。好きなことは好きなことだけやっていても増えません。プログラミングが好きか嫌いかよく分からなくても、やってる内に分かるかもしれない。それこそ僕も楽しさが分かるまでに2年かかったので(笑)、2年くらいはやってみるかーみたいな気持ちでやってもらえたら嬉しいです!

─ほっしー先生、ありがとうございました!

インタビュワー&記事制作 ゆずか記者(保坂柚花 九州大学文学部2年)

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